前回までのあらすじ
再度上段に構えた伝七郎に刀を抜いていないのに振り込む武蔵、近づいて抜いていなかったことに気づき、飛ばされます。「軽すぎるとは思った、こりゃ失礼」とやっと刀を抜きます…
伝七郎死す!!
一年と言う時は二人に残酷なまでの力の差を生んでいました。もう分かり合えないと悟った武蔵は「やめにしねえか、伝七よお」と語り掛けます。伝七郎の一の太刀はすんでのところで届かず、武蔵は間合いを完全に見切っています。武蔵は伝七郎の剣を受け、伝七郎の刀が折れます
仕切り直したものの、伝七郎はいつしか勝利が叶わぬ夢だと痛感します。勝負に勝つことは出来なくとも、ただ武蔵の命を終わらせるために…すると先代拳法の影がその鈍臭さこそが道場みんな好きなのだ、ずっと見ているぞと現れます
「かつて俺は自分を強く見せるために父の名を出した。だが今は父の名を守るために闘う」と前に踏み込んだ伝七郎に、無情にも武蔵の鋭い刃が襲います。左腕を切り落とされ、武蔵を抱きかかえるようにして微笑むと、伝七郎の腸がこぼれます。「よくぞ一年でここまで…最後の相手が貴様で良かった」と呟き、伝七郎は息絶えます
おばばは不機嫌にその場を去ります。野次馬も去る中、おつうは武蔵に逢いにいきませんでした。武蔵はおつうを探していたのかもしれません。植田は伝七郎の妻おみつから手紙を受け取ります。植田の破門は伝七郎存在の間のみであると…当主は植田に託すと言うのです
伝七郎は自身の脇差を抜かれ、それで腸を引き裂かれていました。伝七郎の亡骸を持ち帰り、伝七郎の遺言通り、植田が当主となり、武蔵を京から出さないで仕留めるつもりです
武蔵と又八の再会も…
暗闇の中、武蔵に十剣の小橋蔵人が話しかけます。伝七郎の脇差を抜いて腸を引き裂いたのは咄嗟の判断だったと語る武蔵、吉岡からの果たし状を貰います。寺でおつうの絵を描きながら、武蔵は殺し合いの螺旋を行けるところまで行くと誓います
吉岡から逃げ延びた又八は、武蔵とばったり出くわします。髪型が変わっても同郷の又八のことが分かるのです。二人で酒屋に入ります。吉岡兄弟を連破した男が同郷とは痛快だと又八は笑います。大きくなった武蔵に「とうとうやり遂げたな」と涙します
しかし武蔵はまだ分からないことだらけだと言うのです。まだ上を目指している武蔵が眩しすぎて、又八は無様な嫉妬をします。小次郎の話を持ち出しますが、実際逢っている武蔵はどこ吹く風、又八のいつもの嘘語りも通用しません
酒屋を追い出された二人、又八はおばばから聞いていた通り、おつうはどこだと聞きます。下世話な嘘話を繰り返す又八についに武蔵はキレ、又八は翌朝友を失ったのだと悟ります
一条松の下り松・前哨戦
一条寺の下り松で、植田始め吉岡の連中はここで武蔵を始末しようと思案しています。最早体裁も何もありません。ただ敵討ちのために、どんな卑怯な手でも殺す…植田は「後ろから斬れ」と非情です。植田がこの場所を選んだのは先代拳法との出会いの場所だからと言います
松の木の上で話を聞いている武蔵は、一人対70人、確実に死ぬなと述懐します。おばばや又八の作り上げた武蔵の姿に、誤解があるのに埋めようのないものを感じる武蔵は涙します。蓮華王院で見たおつうの姿はそのままのおつうだったと感じ、それもまた武蔵自身がこしらえたおつうなのだと思い、武蔵は木から飛び降ります
その姿を見た余一は怒り狂い斬りかかりますが、武蔵に石を投げられ目を負傷します。幹部7人が刀を抜き、武蔵は70人と斬り合うよりはマシだろうと息巻きます。武蔵の心の乱れを瞬時に感じた植田に「ずいぶん呼吸が浅い」と言われ、深呼吸をするとすかさず植田の刃が武蔵を襲います!
すんでのところで武蔵は刀で受け、斬り合いが始まるというところで、沢庵が間に割って入ります。植田は「では明日」と引きさがります。腕を上げ見違えるような武蔵に「あの男相当なモンだな…あれとも闘うのか?」と沢庵、近くの寺院で共に食事を摂ることになります
吉岡との最後の合戦も、70人が待ち構えているところに誰が行くものかと、武蔵は京を離れるつもりです。沢庵は武蔵が優しくなった、強くなっているんだなあと言います。またお互い流浪の旅へ…と別れを告げ、武蔵は山越えをしようとしますが、思い直した武蔵は「70人だぞ、行くのか?馬鹿か?」と言いながら道を戻るところでこの巻は終わります
まとめ
一年間の時は、残酷なまでの差を生み、最早武蔵は格上の存在となっていました。剣の家に生まれ、幼い頃から剣技を磨いてきた伝七郎ですが、元々の才能といい、実力を武蔵にごぼう抜きされてしまったのです。剣を知っているものだからこそ、その差は歴然で、悲しいかなその事実を身に染みて分かっている伝七郎の最後は見事でした
このような人間臭さが伝七郎の魅力であり、吉岡道場皆から愛される所以でした。清十郎より、伝七郎の死の方が吉岡に与えた衝撃は大きく、植田を中心に吉岡総出で敵討ちの闘いを申し込まれる武蔵。一人対70人、考えたくもないですね
そもそもは一年前の武蔵の道場への来訪から始まったことです。門弟を失い、屋敷を焼かれ、当主兄弟を連破されたとあっては、吉岡の武蔵への憎悪は相当のものでしょう。植田が勝負にこだわらず、後ろから斬ってしまえと言うのも分かる気がします
又八との再会で少し気が緩んだ武蔵の隙を見逃さなかった植田も流石ですが、決戦は明日だと一旦引きさがります。死地に飛び込むようなもの、流石の武蔵も逃げるのであろうなと思っていた矢先、思い直して道を戻る武蔵、まさか70人相手に斬り合いを行うのでしょうか?続巻も読みましょう!!
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