前回までのあらすじ
胤栄はまた思い出します。竹刀を捨てて前に立ちはだかる師の大きさを…胤舜はたまらなくなり、雄叫びを挙げます…
胤舜の暗い過去
胤舜は不用意に槍を繰り出します。あまりに唐突過ぎて、武蔵は虚を突かれチャンスを不意にします。胤舜はそこまで追い込まれていたのです!武蔵は鍔迫り合いから叩きこみますが、胤舜に反撃されます。しかし、その二手は見切っています!
今は見えると強気の武蔵、「俺は自由自在だ」と飛び上がったところを胤舜の十文字槍が狙います。耳をかすめながら、振りかぶった武蔵の木剣がモロに胤舜の額に入り、胤舜は倒れます!武蔵は「どうだ!俺が強い」と息巻きます
すると、胤舜から霊が浮かび上がります!しかし阿厳達には見えていません。胤舜は阿厳の記憶が頭に入って来ます。阿厳は最初その強さに惹かれ友達になりたいと思いましたが、徐々にその不気味なまでの強さの探求心に恐れを抱くようになったと…それでも友達だと思っていると…
そして、胤栄の記憶が流れてきます。幼き胤舜は坊主になる前の記憶がありません。ついにその前の記憶が蘇って来るのです!満田という侍の息子だった慎之介は、宝蔵院で修行を積む父に連れられ寺に来ています。槍を構えると筋がいいと褒められます
先に母の元へ帰っておれと言われ、母のところへ行くと、何やら野武士と話しています。野武士に握り飯を与え、その場を離れると、野武士がついて来ます。慎之介が転ぶと、野武士は「母ちゃん美い女だなあ」と呟きます。父に満田家の男子は一族を守らねばならぬと言われて来た慎之介は野武士の脚にかぶりつきます
野武士に一刀された慎之介、母は野武士に犯されてしまいます。母は慎之介を想い、かんざしで野武士の目を刺し、野武士は母を殺してしまいます。異変に気付いた満田は野武士と斬り合い、相打ちになってしまいます
宝蔵院漬けを渡しそびれた胤栄が届けに行くと、惨殺された3人と生きている慎之介に出くわします。胤栄は慎之介を抱きしめます。強さを追求し、命のやりとりを求め、必死にあの場面の記憶に懸命に砂をかけていたと胤舜は悟ります。孤独のまま、もう誰にも手の届かない場所にいることに…
生還した二人
武蔵に天から胤舜が語り掛けてきます。武蔵の今後が楽しみだと…生きたいと…。武蔵は胤栄に俺を恨むかと問います。胤栄は胤舜の望み通りにしてやりたかったと言います。初め胤舜を槍術から遠ざけたが、おもちゃ替わりに懸命に、執拗に槍を持ったと言います
槍の天分は凄まじく、15才で院内にかなう者なし、無敵になって胤舜は命のやりとりを渇望するようになったと…「あいつの人生を前に進めてやらねばわしが本当に伝えるべきことは伝わらぬ」と涙する胤栄、しかしなんと、胤舜が立ち上がるのです!「血が出過ぎているぞ」と武蔵に言うと、武蔵は倒れ、そして胤舜も倒れます
阿厳が二人を抱え、四人は山を降ります。この前の一戦も含めて五分、宝蔵院の記録にも残すまいと胤栄は言います
武蔵と胤舜は同じ部屋で横になり手当されています。武蔵は先に起き、胤舜が生きていることに安堵します。胤舜が武蔵のことを楽しみだと言ったことは幻聴ではなかったと悟ります
別の部屋で胤栄が死んだように眠っています。武蔵は一瞬目を疑いますが、胤栄は生きています。雨に濡れて熱が出たようです。胤栄は武蔵に着物と刀を贈呈します。旅を続ける武蔵の身なりを気にしての気遣いです
また会おう、今度は命を奪い合うことなく
胤栄は翌朝早速野良仕事を始めます。胤舜も起き上がり、野良仕事を手伝います。胤栄は生きていて良かった、あの時(両親の惨殺事件)生きていて良かったと語ります。胤舜に「一人じゃないぞ」と語り、胤舜は涙します
暇乞いをする武蔵、恩を返すことなど残りの人生全てをかけても足りるかのうと窘められます。宝蔵院漬けを持たされ、別れるところで十文字槍を持った胤舜が現れます。槍を振った胤舜は、お辞儀をします。お辞儀を返す武蔵に、胤舜は「また会おう、今度は命を奪い合うことなく」と語り、武蔵は喜びます
胤舜は十文字槍を胤栄に返します。もう必要ないと言うのです。無刀…胤栄が伝えたかったことを、胤舜は肌で感じ取ったのです。胤栄は晴ればれします。胤舜は今までの自分と決別し、宝蔵院二代目として後身を育てていくことになります
武蔵は城太郎に柳生までの道案内を促します
おばばとの再会…小次郎の名は天下に轟く謎
小次郎の名を騙る又八は、宿で宿賃を払わない者に小次郎の名を出し、震えあがらせます。小次郎の名は天下に轟いているのです!宿の娘きくを抱きながら、物足りなさを感じる又八は酒を呑みに出掛けます
酒場で吞んでいると、先程の男と、甲斐正嗣郎と名乗る男から、昇り竜と言われる佐々木小次郎に一手御教授願いたいと言われます。己を巌流と称しているそうですなと言われても、又八にはなんのことか分かりません。明らかに出来そうな甲斐に勝ち目はないと見た又八は、甲斐達を突き落とし、逃げ出します
すると、なんと本位田のおばばと出くわしてしまいます!姿形を変えようとそこは親子、すぐにバレてしまいます。又八は逃げますが、おばばに盗人と叫ばれ取り押さえられ、捕まえられると今度は何をすると喚きます。とんでもない婆だと人々は言いますが、これぞおばばなのです!
おばばと権じいは又八に事情を説明させます。酒と女の日々だったのだが、剣の道を究め、印可目録を貰ったと嘘を付きます。当然佐々木小次郎と名が載っている訳ですが、偽名を使っていると言います
飯屋で酒を呑みながら、武蔵とおつうが宮本村を出て行ったと知らされます。二人は男女の仲だとおばばは言います。すると、武蔵の名を聞いた男達が話をしてきます。吉岡伝七郎と互角に闘い、宝蔵院の胤舜を倒したと噂される昇り竜の武蔵と同郷なのかと言われ、又八は「佐々木小次郎を知らんのか」と言います
小次郎も鬼のように強いと聞いたことがあると語る男に、又八は「小次郎が武蔵を倒すだろう」と豪語したところでこの巻は終わります
まとめ
武蔵と胤舜の再戦もついに決着が着きました!落ち着きと鋭い目を手に入れた武蔵は、一瞬のやり取りで胤舜を倒してしまいます!前回の殴打劇が嘘のような一瞬の出来事でした。それだけ先を取るために神経をすり減らした両者の極限の境地での一打でした
気を失った胤舜は、霊となり、胤栄の記憶から過去の出来事を知ることとなります。今まで砂をかけたように思い出せなかった辛い過去、胤舜は必死に弱さを隠すように砂をかけ、強さのみを追い求めて孤独になっていったのです
結局武蔵も胤舜も生還することになりますが、二人の別れは非常に清々しく、このような勝負の世界ではどちらかが死ぬことになるのが常の中、二人にとって実となる結果となって晴ればれしますね。胤栄の伝えたかった想いも胤舜は感じ取り、新たな船出となります。胤舜は二代目として後身を育てていくことでしょう
小次郎の名を騙る又八、しばらく上手くいっていましたが、ついに化けの皮が剥がれ始めます。甲斐正嗣郎をなんとかやり過ごしますが、流石におばばからは逃れられませんでした。ここでも名を騙り剣に生きていると嘘を付く又八、最早哀れです。しかし、佐々木小次郎の名はどこでも絶大で、登り竜と専ら評判なのです!このギャップが、果たしてどういうからくりなのか、現時点でははっきりしません。いずれ明らかになるこのギャップの伏線を楽しみにしながら、続巻も読みましょう!!
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