前回までのあらすじ
明栄達が武蔵の噂をしていると、胤舜が嗅ぎ付けます。明栄達をやっつけると、武蔵に再戦の筆を取ります。胤栄が武蔵に「来るぞ」と伝えます…
武蔵VS胤舜、再戦!
夏から秋にかけて、やれるだけのことはやった武蔵。しかし胤舜の恐怖はまだ癒えぬようで、悪いイメージが沸いてきます。嵐の中、夜討ちを思い付く武蔵は、宝蔵院へ向かいます。しかし胤舜は起きています!
一歩、また一歩前へ出ようとすると、そこに大きな父・新免無二斎の姿が現れます。まともに試合っては勝てぬと見て夜襲を思い付いたなど問題外だと…父の幻影に怯える武蔵は、天下無双はわし一人と豪語する無二斎を斬りますが、「もうすぐうぬは死ぬ」と言われてしまいます
結局何もせず山に戻ってきた武蔵、仏像らしきものを一心に掘り(武蔵にはそういう天分があったようです)、夜が明けます。おつうのことを想いながらいつの間にか寝てしまい、決戦の時刻を過ぎて生き延びてしまった武蔵は笑います
武蔵は胤舜、胤栄、阿厳を見つけます。素直に寝過ごしてしまったことを詫び、なんとその場で試合が始まります。胤舜は今度は真槍・宝蔵院流十字槍を使います。武蔵は相変わらず木剣です。焚火の僅かな明かりの中、胤栄は「死んだ場合骸はどこへ」と問います
少し考えて、武蔵は「骸はそのままここの土に」と答えます。胤栄が立会人になります。武蔵の殺気が消えています。己の内に収めているのです。胤舜は武蔵がこれほど巨躯の男だったかと感じます。胤栄は阿厳にまばたきを禁じます。勝負は一瞬で決まるという読みです
祇園藤次の乱心にも、静かな石舟斎
胤栄は二人の気が、魂が先を取り合っていると語ります。胤舜は全身が粟立つような快感を覚えます。武蔵は十文字槍の刃が厄介だなと感じます。しかし、沢庵の教えを思い出し、俯瞰して胤舜を見ることで、武蔵は冷静でいられます。胤栄は人間の修行も四季の如しと語ります
武蔵の存在を強大に感じる胤舜は、むしろ強大な敵を望んできたのだと考え直し、雄叫びを挙げます。武蔵は自分の冷静さに驚きます。生涯最強の相手を前に、後ろの葉っぱまで見えていると感じます
阿厳は胤栄になぜ武蔵を鍛えたのか問います。胤舜の不可解さや、明栄等の暗躍を説くと、胤栄はまだ肝心なことを胤舜に伝えていないと言います。それまでは死ねないと…
ここで胤栄の回想が入ります。若かりし頃、柳生石舟斎宗厳と共に、天下無双上泉伊勢守を迎えた時のことです。すると、おつうのいる柳生に舞台が変わります。柳生石舟斎は、喇叭者が紛れ込んできたと悟ります。出合えと声を掛けると、そこには乱心した祇園藤次が現れます
道を失った藤次は、胤舜という己の理解を超える存在を目の当たりにし、錯乱し、夢に殉じたいと石舟斎に刃を向けます!しかし、その刃を静かに、いつの間にか石舟斎は刀を奪ってしまうのです!石舟斎は「迷われたら師のもとへ戻られたらいかがか」と諭します。「あなたでさえひとりで生きているのではないよ」と…
ひと段落し、おつうは石舟斎の兵法を初めて観た、私の知る剣はもっと鬼気迫るもので…と語ります。それは宮本武蔵のことだと石舟斎に告げます
我が剣は…天地とひとつ
武蔵のことを嬉しそうに語るおつうに石舟斎は嫉妬します。修羅の世界に生きる武蔵のことから、石舟斎の回想が始まります…若かりし柳生宗厳は天下無双上泉伊勢守秀綱と対峙しています。宗厳は物凄い殺気ですが、伊勢守には殺気はまるでないのです!
吸い込まれそうな宗厳は気迫で打ち込みますが、伊勢守の軽い一打で剣を失い、勝負あり、茫然とします。胤栄も闘いを挑みますが、伊勢守は剣すら投げ捨てます。更に気が入る胤栄は踏み込むと、いつの間にか槍を奪われています!
宗厳は納得がいかず再戦を申し込みます。しかし甥で弟子の疋田豊五郎にすら軽くあしらわれる始末…翌日も鬼の形相で挑むも、結果は同じでした。技の研鑽は素晴らしい、だが心の中は「我」それのみと言われます
己の強さを誇示したいという欲求しかなかった宗厳・胤栄に「剣とは?」という問いは答えられません。上泉守の言う剣とは、「天地とひとつ」なのです!「故に剣など無くてもよいのです」と説きます。無刀なのです!
試合に戻ります。武蔵が先を取り、胤舜が退がります。足を木の根に取られ、バランスを崩す胤舜、そこを突く武蔵ですが、胤舜の十文字槍が突いてきて、僅かに武蔵はかわします。阿厳は山が師である武蔵相手に山中での闘いは胤舜に不利だと悟ります
胤栄はまた思い出します。竹刀を捨てて前に立ちはだかる師の大きさを…胤舜はたまらなくなり、雄叫びを挙げたところでこの巻は終わります
まとめ
修行を重ね、一皮剥けた武蔵は、強力な殺気が消え、自然体で胤舜との再戦に臨むことが出来ました。まるで生まれ変わったかのような武蔵と対峙し、胤舜は逆に雰囲気に飲まれてしまいます。前回の闘いが殴打の連続だったのを考えると、今回は静かな、そして一瞬で試合が終わる気配があります
そんな中で、剣聖と言われる柳生石舟斎と胤栄の回想が入ります。若かりし頃自分の剣が天下一だと気負っていた二人に、静かな剣聖・上泉守が立ち塞がります。彼はまさに住む次元が違う人物で、剣を極め、最早剣すらいらないというくらいの悟りの境地にいるのです!
剣に限らず、自分の実力を世に認めて貰いたいという欲を抱く人は多いことでしょう。富・名声に目がくらんで物事の本質が見えていない人がなんと多いことか…と教えられているようですね。本当に強い人、出来る人というのは、分別を弁え、爪を隠し、決してひけらかさないのです。その必要すらない、自分が分かっていれば良いということでしょう
武蔵はそこまでの境地に達したかは分かりませんが、以前の殺気だった自分は超えたのだと思います。その先が見えた武蔵はより強くなり、あの胤舜が戸惑う程です。第2ラウンド、果たして結末は如何に…!?続巻も読みましょう!!
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