前回までのあらすじ
おつうのことを想いながら、武蔵は円を作り、「(中に)来るならば斬る」と言います。武蔵も我執を解き放ちます。そして一刀斎が隻腕ではないかと勘づきます。お互い刀を抜こうとしています…
武蔵VS一刀斎、一瞬の出来事
武蔵が円を描くとそのさらに外周に一刀斎は円を描き、それが儂の刃圏だと言います。そこに石舟斎の亡霊が現れます。子どもの頃の憧れだった一刀斎を前に、斬り合う相手に対して認められたい、ほめられたい気持ち、それは容易に制御しがたいー心の中に波打ち始めた執着かと石舟斎は言います
天下無双は陽炎ーただの言葉だと言う武蔵に一刀斎は「0点だ」と失望します。幼き頃剣鬼一刀斎という彫像を彫り、10人と試合して10人斬ったと喜ぶ武蔵、我執を解き放ち、その場で脚を踏み込み、一刀斎に闘う理由がないと言います。こんな気持ちで一刀斎と斬り合うなどあまりに勿体ないと言う武蔵に、一刀斎は踏み込んで正拳突きをして武蔵を吹っ飛ばします。しかし武蔵も咄嗟に胸に一刺し入れていました!
一刀斎は「さあて何点やろう」と呟きます。酒で傷を癒しながら、酒屋の柱に一太刀入れ、「孫の代まで客が絶えぬだろう」と言い残し後にします
お主のなかに答えはあるんだろうと言い残し、石舟斎はあの世に旅立ちます。おつうの笛を聞きながら…石舟斎は79歳で、そして一年後、胤栄は86歳でこの世を去ります。一刀斎は武蔵に負わされた傷が痛み、道中しゃがみ込みます
千点やろう
又八は武蔵が幼い頃の語りをしています。川を泳ぎながら、ほんとは誰も恨まなくていいのではという境地に達したことがあったようなのです
正気を取り戻した武蔵は、脚が使えないそのものより厄介な敵…足が使えないという自らの恐れ、その循環を大きくしたもの、そのまま殺し合いの螺旋、それには勝てたよなと述懐します
負った傷を癒しながら、一刀斎は本当は一太刀入れるつもりでしたが武蔵は抜く暇を与えず、結果張り倒す形となり、胸に一太刀入れられたということなのです。一刀斎は武蔵に「千点やろう」と言います。一刀斎は小次郎に斬られた無残な右手を見せ、「この助太刀あっての千点」「小次郎の方が強い」と言います。一刀斎は小次郎と立ち会っていたのです!
一刀斎は思い出します。関ケ原から生還した小次郎を見つけ、斬り合うことになります。全身全霊でただ斬ることの裡にあるーその点において儂以上の人間を初めて見たと一刀斎は感じ入ります。小次郎の一太刀は一見浅く、かわしたかに見えましたが、下からすくい上げた剣が一刀斎の右手を斬ってしまいます!一刀斎も同時に小次郎の肩に一太刀入れていましたが、小次郎に「千点やろう」と言います
一刀斎は武蔵に負わされた傷が思いの外深いことに気づきます。石舟斎の無刀という言葉に「何が楽しいのか?」とまだまだ我執は終わらないようです
後ろから斬り結んできた男を斬り、武蔵は一刀斎が「剣に生きると決めたなら、正しいかどうかなどどうだっていい、感じるべきは楽しいかどうかだ」という言葉を思い出します。武蔵は過去の壮絶な数々の闘いを思い出し、楽しくてしかたなかったと涙します。石舟斎を天下無双などと勝手に名付けたりして、もっとはるかに大きなものにあなたはなろうとしていたのにと述懐します
海辺で棒を振る武蔵に親子連れの子どもの方が話しかけてきます。ずっと同じことをしている武蔵に耳が聴こえないんだねと言い残します。武蔵は小次郎に、友に会いたいと願うところでこの巻は終わります
まとめ
伝説の剣豪伊藤一刀斎を前に、歳の差こそあれ脚に深手を負っている武蔵、勝負はやや不利かに見えました。しかし、隻腕のふり(実際右手では刀を抜けないのですが)を咄嗟に気づき、一太刀入れてしまう武蔵は流石です。刀を抜けなかった一刀斎でしたが武蔵を張り倒し、「千点やろう」と言います。ただ「小次郎の方が強い」とも言います
武蔵に負わされた傷が痛む中、一刀斎は関ケ原で生き延びた小次郎との立ち合いを思い出します。全身全霊でただ斬ることの裡にあるーその点において儂以上の人間を初めて見たという一刀斎、自分と同格の相手を探していた彼には渡りに船です。結果小次郎に右腕を斬られ、「千点やろう」と言う訳ですが、一刀斎には無刀という言葉は無縁で、石舟斎の至る境地には達せられない、また違う次元の中にいるようです
命のやりとりが楽しいという一刀斎、武蔵の剣技を磨く所以、根底もこの楽しさがあるからなのでしょうか?まだまだ剣への未練が残る武蔵は、いつしか小次郎を想います。いよいよ二人の再会はあるのかと期待してしまいますね!次巻も読みましょう!!
おまけ
「いのうえの」という画集があります。こちらは最後のマンガ展の中の武蔵の最期が描き連ねてあります。バガボンドは現在37巻まで出ていますが、まだ途中で最後まで描き切られていません。しかし、この「いのうえの」にはバガボンドの最終話と思ってもいいような内容のマンガが載っており、伝説の画集との呼び声もあります。武蔵の最期、とくとご覧ください。ちなみに作中に出てくる風木という眼の色が青い少年は31・32巻で又八の語りを聞いている少年と思われます
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