世は泰平、人と半人半馬の種族「人馬」は手を取り合いながら生きる世の中になっていた
しかし山岳の人馬の生き残り・権田はいまだ戦があった時代の苦しみと人間への憎しみを抱き葛藤していた
権田の甥である谷風は彼らの苦しみがわからないと悩みながらも彼らがそれほどまでに強く想う人間を知りたいと人里へ下りた
そこで三人は人と、人と共に生きる人馬と共に働き、生活を共にすることを決意した
『人馬』4巻のカッコいいシーン・ベスト3!3位「この机は 父さんがアタシのために作ってくれたの あの道具も人馬に負担のないようにって何度も改良されたものなんだよ 一緒に生きようとしてる人間もいること… 伝われば良いのになあ」
これは、権田と三国が勤めることになった建築現場の女頭領、人馬のコノハが、初日を終えた権田と三国を家に招待した時にぽろりとこぼすセリフである
コノハの実の父母は既に亡くなってしまっていたが、人間の老夫婦がコノハを引き取り成長に合わせて家具などを作り直しながら育て上げたのだという
人間も人馬も、わだかまりが完全に消えた訳ではない
だが、戦がなくなった世で、互いにわかり合おうとする者達がいるのもまた事実であった
権田はそれを聞き思わずコノハの家を飛び出してしまう
人馬を駆り立てる人間と、人間にあらがう人馬の姿しか知らない権田は、この時代に自分がどう在ればいいのか、山に、木々に問いかけるのであった
2位「こんなに綺麗なものはじめて見て… 凄く嬉しかったのに 悔しかった」
権田と三国がコノハの許で働いている間に、谷風は籠編みの巧みさを買われて籠職人の許を訪れていた
そこで感じたのは、思いもよらないような見事な細工に対する感嘆や賞賛の念と、それを今まで知らなかった、そこまで追求することをしてこなかったことへの悔しさだった
今まで生きてきた間に作ってきたものはなんだったのか
作りたい、誰かを震えさせるほどの何かを
そして見せたい、心が震えるほど丹精込めて作ったものを
谷風は決めた
人里で生きていくことを
1位「力ならここにある! 使え!! たのむ 谷風を…ッ」
権田は大工達と過ごすうちに少しずつ人間に対するわだかまりが解けていくのを感じていた
しかしそんな権田へ谷風が、「山へは帰らない」と告げたことで、二人の間の「生きる場所」を巡る軋轢は激化してしまう
そんななか権田や三国、コノハらが人間たちと力を合わせて造り上げた建物の上棟式の日、雨が降ったのである
雨はひどさを増し、巨大な地崩れを引き起こし、建物もろとも谷風を飲み込んだ
大工たちは瓦礫の下敷きになった谷風を助けようとするが、崩れた建材や落ちてきた石が重すぎて動かすことができない
そこで権田が放ったのがこのセリフであった
権田は山の人馬の怪力で瓦礫を持ち上げ、大工たちは託された谷風を隙間から引っ張り出す
しかしその衝撃で瓦礫がさらに崩れ、みなの上に降り注ぐ
とっさに権田はその巨躯をみなの上にかぶせ、全員の命を救ったのであった
人間を憎み、忌み嫌ってきた権田が、初めて人間を頼り、人間を救った一幕は息つく暇もなく我々読者は固唾を飲んで見守ることしかできなかったのである
この事故の結果、谷風は脚を失ってしまった
それは大人の人馬であれば命に関わる大怪我であったが、体重の軽い子どもであった谷風の脚には人間の手により造られた義足がつけられ、どうにか快復の方向へ向かっていった
その姿を見た権田は谷風を人里に、人間に預け、山へ帰ることを決意する
それは決して恨みや憎しみから来る決断ではなかった
人間と生き、コノハをはじめとした人と共に生きる人馬と出会ったことで権田自身が、己は山に生きる人馬だということを初めて認識したのだった
そして権田はコノハとともに山へ帰り、谷風と権田をずっと見守ってきた三国は、最後の戦いの時に散り散りになった仲間を探しに諸国を巡る旅に出た
自分らしく生きるとはなにか
それはこの物語だけの命題ではなく私たちひとりひとりが考え、対峙し、時に闘い時に手を取り合う命題なのではないだろうか
私も「私らしく生きるとはなにか」を考え続ける人生の迷い人である
この作品は「いのち」というものをもう一度考える一つの道しるべなのかもしれない
現在も第三部がWebコミック誌Matogrosso( https://matogrosso.jp/ )で連載中である
第三部はこの物語の父であった松風の幼少期を連載中なので、気になる方はぜひご覧あれ
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